honne_2_2|JIDA東日本ブロック                     

デザイン本音トーク「生き残るためのデザイン」2-2




(スピーカー発言抜粋)

2日目:5月6日(振替休日) 13:00〜18:30
主催:JIDA 2010ビジョンクエストを推進する東日本ブロック委員会 連続フォーラム第6回
場所:JIDAギャラリー 参加:35名




◎堀越敏晴氏:(有)シーダブュルエス◎ 30分+10分
「フリーランスデザイナーの新しい展開」

・希望的な話もするんですよね。希望的な話としては日経新聞に出ていたんですけど、まだまだ
未開拓の誰もやっていない領域があるというんです。どうしてかというと、社会が変わって行
くからなんですね。2030年は65 才以上が31%になると。お金を持っていて、かつ元気と
いうお年寄りが相当増えると。そういう人たちをどうビジネスにするか、誰も考えていない。
お年寄りだけでなくて我々はデザインというと、すぐ医療機器のデザインとか松葉杖のもっと
格好いいのないのとか始るけど、どうもそっちではないらしい。
・ですからプロダクトデザインのプロセスをハンドリング出来る。それから新しい技術を生かし
て、もう少し別の領域があると信じるしかない、信じるか作り出すかしかない。そういう活動
をしたいと思っている。
・特にお年寄りが一人暮らしで元気なんだけど、財産の管理とか家のメンテナンスとか、そうい
うことが一切出来なくなっている人たちについてどうするか。社会システム+モノなのかも知
れないし、もう少しいい方法があるのかも知れない。分りませんが、そういった所。

・それからやはり地域ですね。今、どうして駄目になっているかと言うと、卸問屋の機能が全滅
なんですよ。卸問屋はメーカーから買い上げてくれる。お金を立て替えてくれる。立替払いし
在庫をする。製品の段階で買い上げたものを商品にする。それを全国流通させる。流通させな
がら消費地から情報を持ち帰ってくる。ですから金融と物流、情報を担っているわけです。
それが駄目になったんですね。
だから卸から情報が来ない今、メーカーは何を作ったらいいかわからない。とりあえずデザイ
ンが必要だと言ってきているわけです。どうやったらいいか教えてくれと言ってきているわけ
です。そこのところをどう考えるか。私はここをビジネスに出来ると思います。ただデザイン
は万能だという誤解がある。小規模事業者にとっては10万円が「大金」の世界です。地域では
20万とか30万とかいうと次回にしようとなる。
・希望的なことを纏めると、次の三つが私が考えるフリーランスデザイナーの今後のキーワード
です。

1)新領域をとにかく開拓するという、ある種の志しの高さをもって新領域を開拓すること。
2)マーケティングから次の購買に繋げるアフターセールスまで含めたプロセスをしっかり把握
して、色んな部分をビジネスチャンスにして行くこと。
3)それと、もう一回「見本市」の時代が来たと思っているのです。展示会です。というのは今、
地域でも自分のブランド、自分の所のオリジナル商品を持っているメーカーは、フランクフル
トだミラノだと出して行っている。むろん国の補助金付きで出て行っている。ところが自立で
きていない所、もうじき自立出来そうな所というのは、多分ビジネスになるんですけど、そこ
をどうして行くか。私のオフィスの社名でもありますが、ワークショップと展示、とにかく自
分たちが作ったものを見せる、見本市みたいなものを含めたソフトにするというのが、一つビ
ジネスのスタイルになると思っています。

・というのは何といっても今、卸も小売業も売上げ減で全滅です。デパートも駄目。一番元気の
あるのがベンチャーの販売業者。ファブレスの会社ですね。そういう所が見本市に沢山来ます。
見本市でブースを出すと300枚位名刺が集まる。2割位しか有望なのはないんですが、つまり新
しい小売業を見つけることが必要になってきているのです。
・こうなった原因で一番大きいのはITです。卸が駄目になったのも、小売が駄目になったのもIT
の影響ですから。だって、どこで何がいくらで売られているか分るんですから高い所で買いま
せんよね。店舗に見に行って、実際に買うのはネットです。ですからネットにないようなもの
を、常に供給出来るメーカーにする。あるいは、そういうメーカーと組むことが、これからの
活路の一つかなあと私は思います。こういう問題を話し合いたければ「フリーランス研究会」
へどうぞ参加して下さい。





◎浅香嵩氏:デザインスタジオ トライフォーム◎ 30分+10分
「生き残るためのデザイン」
・スライド「デザインの課題」:川上領域の拡大と川下のモノ作りの現場まで。「三つの方向の
デザイン職能」:エンジニアリングデザイナー、コンセプトメーキング出来るプロダクトデザ
イナー、フォームクリエイター。「重層化するデザインの構造」:環境、持続性、エコロジー、
災害・防災、安心・安全などのテーマは先進国、発展途上国ともに関わらざるを得ない。
・たまたまヴィクター・パパネックが1980年代に書いた「生き延びるためのデザイン」を改
めて読んだら、インダストリアルデザインのことを糞味噌に言っているんですね。でも最終、
彼が言いたいのは、そうじゃないんですね。デザインを通じてやれることはこれから沢山ある
だろうと。実際に彼もワークショップを立ち上げて、後進国、特にそこで豊かなものの創出と
いうか、成長ということを言っています。
・そこで必要なのはやはり「大量生産」です。それを否定することは出来ないと思う。それでな
いと65億の人間が食べて行かれない。一番分りやすいのは「安くて良いもの」です。「安く
て良くないもの」「そこそこのもの」は実際に売れてない。僕も一度100円ショップへ行きま
したが、やはり買うのをやめました。2・3分見て「これは買うべきじゃないな」と思った。
ただその後、質的にも良いものであるとすれば、こちらも変わってきますが。

・そのためには、日本が培ってきたインダストリーの考え方とか手法を復権させる必要があると
思う。(*スライド説明。)
・たとえばケータイ電話。中にシームカードだとか入っているけど、本当に簡単な通話機能だけ
にして、本当に欲しい人がカードを買ってメールも出来ます、インターネットも繋げますと。
その代わり1万円から3万円、3万から5万になり、5万から8万になる。そういうプラッ
トフォーム作りが必要なんじゃないか。そんな気がします。 (*スライド):自動車の例。
・夫々いくつかのプラットフォームを作って、それをカスタマイズしたり、モデュールを追加
することによって、幅広いレンジで企業活動を損なうことなく、モノ作りの貢献が日本の産
業の中で可能になるのではないかと思っています。
・一挙に「感性価値」といっちゃうと(僕は全然否定しているわけではなくて)評価軸が非常に
難しい。たとえば、このレポートで一番問題なのは「感性を問わない」と言ってる点です。い
わゆる高いとか低いとか言わない。それは難しいからだと思います。実際に「あの人はビジネ
ス感覚が良いとか悪い」と通常言ってるんですが。それを言わない所で、価値の設定というの
があるのかなあと、そういう疑問があります。

・それで先程言ったような「共通基盤」を作る。それから構成要素の幅広い展開性を持つ。それ
と改造・改編と書きました。自分の一つの道具がある。先程話題のCさんがデザインした例
えば壁にあるモノ。そこに何もつけてはいけないよとなると今、若者に流行の「デコ・メール」。
そういうものにガチャガチャ付けるなよという話しになるけど、それはデザイナーとしての考
えとして「道具はこうあって欲しい」という願いは当然あるとしても、それとは 別に人が関
わることによって「自分のモノにする、自分のモノにしたい」はある。
・たとえば家の空間でも、やはり自分の意志や価値観で自分の生活を作る。その時に、もっとモ
ノが受け入れられるような仕組みを持ったら良いのかなあと思っています。まあ、この辺が僕
の大体のまとめですが。




◎黒川雅之氏:(株)黒川雅之建築設計事務所+(株)Kシステム◎ 60分
「プロダクトデザイナーとして」
・僕が作りたいと思うものが、いつも実現するとは限らない。作りたいものは一杯ある。作る欲
望というのはふつふつと湧いてくるじゃないですか。デザイナーとして、湧いてくる作りたい
気持をレポートにしたりして売り込んで行く。僕の仕事は殆どロイヤリティです。後は研究開
発費と称する年間契約ですけど、なぜロイヤリティが多いかというと、誰もデザインを依頼し
てくれないからですよ。建築設計事務所という名前にデザインを依頼する人はいない。
・企画を作って格好いいデザイン持ちこむんですけど、「黒川さん、これデザイン料いくらです
か」と。「いや要りません。一つ売れたら原価の5%でいいです。」「じゃあ、3つしか売れな
かったら、その分でいいんですか」「いいです」という風に始めるからロイヤリティになるし、
やっと仕事が始るので、まあ、うちはロイヤリティで。バブルの時代には本当に申し訳ないく
らいお金が入りましたねえ。今は激減しておりますので皆さんと同じくらいと言ったら失礼で
すけれど(笑)今は苦労しております。
・そんなことでモノ作りを始めました。デザインという概念にはモノ作りが入ってなくては嘘だ
ぞと。昔の職人というのは自分で企画して、デザインは頭でして製造して販売に近い所までや
ったわけです。職人は企画からデザインから製造までやったじゃないか。製造には技術も入り
ますからね。それなのに何故今のデザイナーは技術は誰々さん、作るのは誰々さんに回すとか
してしまうのか。結果として「形づくる」所だけにしてしまった。

・経済産業省なんかも「感性」「感性時代」なんていうことをすぐ言う。過去の歴史を見ますと
感性という言葉を何回使っているか。それしかいうことがないみたいに同じ言葉ばかり使って
いるんですね。ところが本当に感性という言葉が深い所で使われているかというと疑問があり
ますね。例えば文学の方では苦渋とか不安、死にたい思いから寂しさからといった感覚を表現
していますよね。 
・デザインだって「モノで語る人間の言葉」であるとしたら苦渋や恐怖もデザインの中に表れて
なければ嘘ですよね。それで初めて大きな感動がモノから表われるのですけど、お役所のいう
感性というのは本当に綺麗なことしか言ってない。そういう所で話していると、いつまでたっ
てもデザインは進化して行かないと、僕はつくづく思うんですねえ。
・職人はこれだけ持っているのにデザイナーは何を見てやっているのかというと、僕は「人」を
見てやっていると思う。職人たちは技術があるわけですから。モノに触ってモノと会話をしな
がらモノの中の知恵を手に入れている。すなわち、モノとは(演台の)この机であり、地面で
あり、モノとは地球なんですよね。地球と会話をしているのが職人なんですけど、デザイナー
は地球なんかとは触りもしないでデザインしている。コンピュータの上で描いていますから。
会話なんかしていないんですよ。                                       
・しかし、それはそれでは駄目かというとそうではなくて、人と会話している、人とか社会とか、
産業と会話している。これが近代に必要になった概念だったからこそ、デザイナーが登場した
のだろうと。ただ逆に、職人の持つ地球との会話を手に入れてないだけに、これをどうしたら
もう一回手にいれることが出来るだろうかと考えた。僕はそれを自分自身の中で「モノ作り」
に参画することで、僕は職人になれないけれど「システム」が職人だと、システムとしての職
人を作ろうとしているんです。

・そういうわけで、これを「プロダクション」という言い方をしていて、社名を株式会社Kシ
ステムと言います。そのKシステムに七つの思想がある。「素材、偶然、破綻、沈黙、気配、
原型、仕掛け」です。既に色んな作品が生まれました。*スライド
・プロダクトデザインについてですが、プロダクトというのは簡単にいえば結果という意味です。
プロセスが経過でプロダクトは結果ですから「製品デザイン」です。
・インダストリアルデザインは工業・産業という非常に産業社会のためになるデザインと、はっ
きり位置づけられているのですよ。プロダクトデザインは産業という言葉に当然入ってくるけ
ど、具体的に「じゃあ企業のために何をするか」という発想をしなくていい世界です。
・こっちの世界が今、どんどん肥大して、JIDAの人も気持の中では「プロダクトだよ」と言い
ながら、どうしてもインダストリアルデザインの永い歴史と、インダストリアルデザインの教
育システム––これが、大学へ行きますと全然古い。ここにいる先生を除いては、社会的には
もう死んじゃった人が教えている。(笑)そこを思うと、教育についてはJIDAにもうちょっ
と積極的に関わって欲しいと思いますね。
・なんとか「プロダクトデザイン」の思想や感性が、インダストリアルデザインともっとシュ–
–ッと接近して、なにか変質させる力がないかと思うんですね。
・例えば新聞社から「都市に車が氾濫してこういう問題が起きています。どう思いますか」と建
築家協会とか建築家にはインタビューに来る。「現代都市の問題について何かお考えがありま
すか」とテレビ出演の依頼が来る。そういう社会性を持たないですね、インダストリアルデザ
インは。どうしても「企業性」の方が優先されてくる。だから社会に向かって大声でしゃべっ
ている感覚がない。それをJIDAが取り戻すというか、これから手に入れる大きなテーマだと
思います。



◎閉会挨拶 杉本功雄 JIDA 2010ビジョンクエスト担当理事                 


■レポート:佐野邦雄

更新日:2012.01.06 (金) 10:43 - (JST)