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連続フォーラム「生活の論理を考える」

◎第1回フォーラム「デザイナー・経営者は生活者であれ−ワガママな個人−」


最近「ユーザー視点に立ったデザイン」とよく言われるようになりました。「ユーザー視点」を
言葉だけでなく実感として理解するためには、ユーザー・生活者が長年の生活の中で築いた
「生活者・生活の論理」を知る必要があります。

・講師:犬養智子氏(評論家・作家)
・聞き手:松本有氏 柴田文江氏 JIDA
・進行:堀内智樹氏 JIDA
・日時:3月19日 PM3:00~6:00
・場所:六本木ミッドタウンタワー デザインハブ
・協賛:(株)トゥールス゛ 参加:63名



最初に犬養氏より「デザイナー&経営者は生活者であれ」の題でパワーポイントによる31項目の
具体的な指摘と提言があった。(以下抜粋)

■ワガママな個人「私は買うひと、選ぶひと、ノーというひと」
ワガママということは日本では決していい意味を持ってない。人間がワガママということはモノ
言う人です。私は買う人、選ぶ人、一番最後にノーと言う人。それが凄く大事です。
私がワガママと言われた一番の元は私が自由な個人、自己主張するからです。
勝手に決めないでくれ、モノを決めるのは自分自身であって、誰か他の者に決められては困る。
でもそれは日本では生意気ということになる。ですから消費者はどうしても受け身になって
しまって、ようやくモノいう市民になろう、生活者として発言しようとなってきていますけど、
まだまだです。
自分で意見を言え!これが民主主義の元。

■モノと私のかかわり
私は長く愛して使うことが好きで、愛して使えるものを持てばモノは長持ちさせることが出来る。
100円ショップでいいかげんなモノを買うと使い捨てに繋がる。
いいモノを使っているとハッピーになる。道具に私たちの生活は凄く左右される。
家におくモノは断固自分の目で選んで嫌なものはおかない。
鉛筆はステッドラ−、動物は猫。

■買わなかったモノ
電気炊飯器。壊れたので探したが、あの新幹線みたいの、あれはとても嫌だと思った。
あまりに機能が多すぎる。ボタンも嫌だ。値段が高すぎる。炊くのに時間がかかる。
土鍋の方が早い。ワンカップなら10分で炊ける。

■幸福の原理
人間は幸福になるために生まれて来たと信じている。日本ではこれがしばしば侵される。
というのは上からの規制が非常に強い。それとは闘わなければ。悪い環境、ビジネス本位の
都市計画、法の乱用。三人乗りの自転車を禁止するなんていう馬鹿なことを。
さすがにこれは抗議によってやめたんですが。
自分で私的なモノは確かに選べます。公的なモノは権力によって左右されてしまう。                                                                                       

■個人生活が楽しい街 NY・LA
日本のバスに広告一杯つけているでしょう。実に醜い。フシギな社会、企業&デザイナーは
わかっているの?日本の企業やデザイナーは分っているんだろうか−ということをちょっと
言いたい。モノが溢れているのに欲しいモノがない。これは皆さんもご経験だと思う。
シンプルで上質なモノが欲しいのにも拘わらず、とてもデコラティブなものになってしまう。
色の美しいのが欲しいのに、なぜか日本製はモノトーンになってしまう。良い製品が製造
中止になる。安くて良いモノがなぜ作られないのでしょうか。
企業やお店は自信過剰じゃないのかと思っている。
ディジタル時代。洗濯機、私がとても怒っているのは全部、私の知っているかぎり何でも
ディジタル。物凄く使いにくい。

■あなたは生活者?個人?
この質問を皆さんにしたい。特にデザイナーに。
デザインする方々は果して「生活」をしているかどうか。あなたは「個人」かどうかを問いたい。
自由にモノいうひと&社会へ嫌なモノを嫌と言うことがとても大事。自由にモノを言う人。
個人主義が民主主義を作る。そこが新しいモノを作る動機に繋がる。

■個人であれの意味
日本の不公平な集団の中の一員として安心立命を得ているためにではなく、もっと個人に
なれば会社の一員であっても平等な市民であり、デザイナーもどんどん会社側に言って欲しい。

■SEXY!の発見
忘れているSEXYさ!三島由紀夫はかつて「日本は経済大国になるが、モノトーン、中間色、
無機質な国になる」と言った。日本の自動車は高性能だがセクシーではない。超高齢社会の
ゲンキ個人へ超高齢化−是非今から闘って欲しい。皆さんの親のためであるし、皆さん自身
のためかも知れない。デザイナーは辛いと思う。
かなり皆さん闘っていると思う。
私も本を出す時は出版社と闘っている。



犬養氏の話を受けて、松本有氏と柴田文江氏から日頃の仕事の紹介を含めて意見が述べられた

■松本:研究開発型のデザインを中心に24年間やってきた。ある時はジャガイモの皮を10キロ
も剥いて確認しながら皮剥き器のデザインをやるといった実験型の進め方を。闘うデザイン
事務所とか、ワガママなデザイン事務所とか言われて来た。電話で分らないことは中国でも
アメリカでも行く。そういう感じでモノ作りをして、モノを長く使って頂くようなデザインを
してきた。

■柴田:2年前に家具から何から全部新しく揃えたが居心地が悪かった。普通の日本の住宅事情
の中で私たちの生活を構成しているのはモノだとしみじみ思った。大袈裟に言うとモノが人生を
作っていると言ってもいいと思うほどだった。そういった日々自分の人生を作っているモノを
デザインするチャンスを持っている私たちは、どれくらいの責任を持って仕事をしているかなと
思う。犬養さんの話で、本当は炊飯器を使わずに鍋でコト済んだとあった。私たちは職業として
モノを作って行かないと生きて行けないが、作らなくても本当は困らないという所に存在して
いるデザイナーとして、作るというチャンスと、そういう職能に就いているからには何か作った
ことに責任を果して行かなければいけないと思っている。
それと、一般の消費者がいくら言っても届かない苦情というものがあると思う。
私たちデザイナーはノーを自分の仕事で実施できるわけですよ。ノーだから、こうじゃなくて
こういうモノを作るということを出来る立場にいる。ぜひノーを言いつつそれを仕事で実現し、
なおかつ作って行かなければいけない経済活動の中にいるデザイナーとして「では何故作るのか」
と。新しくなって良かったなと。前のより良くなったという方向性で、私たちの抱えている矛盾
に挑んでというか闘い続けて行きたいなと思う。



会場から:8人の生活実感溢れる意見や期待が出された。紙面の都合で二人の意見を紹介する。 

■山口泰子/JIDA:今大事なことは見えない所で牛耳っている流通業者の問題だと思う。
流通に携わっている人たちのフィロソフィーといったものが全然ないのではないかと思う。
その辺りを育てて行くことがとても大事だと思う。(拍手)

■林千根/翻訳業:ノーと言えない立場の消費者に対して、もっと選択肢を増やして欲しい。



最後にまとめとして各氏からひとこと                                         

■柴田:犬養さんが言うデザインは別に変わったものではなく、何かインテリジェンスという
感じがした。なのに我々がやっているデザインは相変らず片仮名のデザインでトレンドとか
なんとかで、本当の意味のデザインではないのではないか。
よく経営者が「デザインて分らない」と言うが、デザインはその人の知性とか価値観だったり
するので難しいことはない。私たちはそれを仕事にしているので、仕事としてやらなくては
ならないデザインと、普通の目で本当にこれを自分で買うかなと、そういう目線でチェック
する機能をもっと強化していくと、もうちょっと秋葉原も綺麗になっていくと思う。
皆さん頑張りましょう。(笑)

■松本:学生の時「暮しの手帖」をとっていた。今、同じやり方を自分の所でやっている。
本当はああいうものが残っていて指針を示していてくれれば、消費者が何を望んでいるかが
出てくると思う。それが今出来ないならデザイナーがやるべきだと思う。
デザインの本質が分ってこない。表面的なものだけだとしたらデザインとして失格だ。
デザインはものごとの解決策の方法論なのだから、その中で色や形や様々な方法・システム
がある。今回、こういう機会を得て、沢山のことをやらなくてはと思った。
皆さんと是非高めて行きたい。

■犬養:こういう機会がもっと沢山増えるといい。デザイナーの方が色々考えていることが
分って救いだった。流通業者やサービス業者の問題とか、皆の声が出てパブリックにならない
といけない。凄く問題があると思う。

終りに
3時間が短く感じられるほど立場の異なる互いの意見が噛み合い、ユーザー視点からデザインの
働きを確認する良い機会となった。進行役としていろいろ工夫された堀内智樹氏に感謝したい。                                               


■レポート:佐野邦雄





更新日:2012.01.06 (金) 10:07 - (JST)